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札幌高等裁判所 平成6年(ネ)148号 判決

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴の趣旨

主文と同旨

二、控訴の趣旨に対する答弁

1. 本件控訴を棄却する。

2. 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原判決別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)は、中西一の所有であったところ、昭和六三年三月二九日同人が死亡したため、中西一知が相続によりその所有権を取得した。

2.(一) 控訴人は、昭和五二年七月一四日中西一から、本件土地について、控訴人の中西春一に対する信用組合取引による一切の債権、手形債権、小切手債権を担保するため極度額を六〇〇万円とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の設定を受け、控訴人を権利者とする原判決別紙登記目録記載の根抵当権設定登記(以下「本件登記」という。)をした。

(二) 被控訴人は、本件土地について、旭川地方裁判所に強制競売の申立てを行い、同裁判所は、平成四年一〇月二日強制競売開始決定をし、同月五日それに基づき差押登記がされた。同裁判所は、同年一一月二〇日、控訴人に対し右強制競売事件について配当要求の終期を定めて通知したので、控訴人はそのころ右差押えの事実を知り、その後二週間を経過したことにより本件根抵当権の担保すべき債権は確定した。

3. 被控訴人は、中西一知に対し、旭川地方裁判所平成二年(ワ)第一五七号貸金請求事件の確定判決による一三八万円及び同裁判所平成三年(ワ)第二八五号貸金請求事件の確定判決による一六二万五〇〇〇円の各債権を有しているが、同人にはこれを弁済する資力がない。

よって、本件根抵当権は右確定により被担保債権が存在せず消滅したから、被控訴人は、債権者代位権に基づき、控訴人に対し、本件登記の抹消登記手続を求める。

二、請求原因に対する認否

1及び2の各事実は認め、3の事実は知らない。

三、抗弁

控訴人は、中西春一に対し、信用組合取引契約に基づき次の各金銭消費貸借契約上の債権(以下「本件債権」という。)を有する。したがって、本件根抵当権は有効に存在する。

1. 昭和五二年七月一四日付金銭消費貸借契約

貸付額 六〇〇万円

弁済期 昭和五二年八月から昭和五五年一月まで毎月末日限り各二〇万円ずつ

利息 年一三パーセント、毎月末日限り翌月分を支払う。

2. 昭和五三年四月六日付金銭消費貸借契約

貸付額 一五〇万円

弁済期 昭和五三年七月三一日

3. 昭和五四年三月一二日付金銭消費貸借契約

貸付額 八〇〇万円

弁済期 昭和五四年四月三〇日

四、抗弁に対する認否

否認する。

五、再抗弁

1. 中西春一は旭川市神居町神居古潭において「中西果樹園」の商号で青果商及び果樹園を経営しており、本件債権はその営業資金の借入れを目的とする金銭消費貸借により発生したものであるから、商事債権として五年の消滅時効にかかる。

2. 本件債権は昭和六一年三月一八日の債務承認により時効が中断したが、同月一九日から起算して五年が経過した。

3. 被控訴人は、平成五年三月八日の原審第二回口頭弁論期日において、控訴人に対し右時効を援用する旨の意思表示をした。

六、再抗弁に対する認否

1は否認若しくは争い、2の事実は認める。

七、再々抗弁

中西春一は、控訴人に対し、昭和六二年一月八日、昭和六三年六月七日、平成三年四月一八日及び平成四年一月二三日、それぞれ本件債権について債務の承認をした。

八、再々抗弁に対する認否

争う

第三、証拠関係〈略〉

理由

一、請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがなく、甲第七号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば同3の事実が認められる。そして、乙第一ないし第三号証、第六、七号証及び原審証人中西春一の証言(第一、二回)によれば、抗弁事実がすべて認められる。

二、次に、再抗弁について検討する。

乙第一、二号証及び右中西証言(第二回)によれば、中西春一は、旭川市神居町神居古潭において、果樹園を営むとともに、「中西商店」の屋号で店舗を構えて果樹園で生産した林檎等を直売していたこと、本件債権は右営業資金の借入れを目的とする金銭消費貸借により発生したものであることが認められる。そうすると、中西春一は商法四条二項により商人とみなされ、本件債権は、同人がその営業のためにした金銭消費貸借により発生したものであるから、商法五〇三条、五二二条により商事債権として五年の消滅時効にかかることになる。そして、本件債権は昭和六一年三月一八日の債務承認により時効が中断したが、同月一九日から起算して五年が経過したことは、当事者間に争いがなく、被控訴人が平成五年三月八日の原審第二回口頭弁論期日において、控訴人に対し、右時効を援用する旨の意思表示をしたことは、記録上明らかである。

三、そこで、再々抗弁について検討する。

乙第八号証、第一〇ないし第一九号証、前掲中西証言(第一回。但し後記信用しない部分を除く。)及び原審証人岩谷敏市の証言を総合すると、中西春一は、前記信用組合取引を控訴人旭川支店との間で行っていたものであって、事業が倒産してからは本件債権についての弁済が滞っていたものの、その存在自体は認めており、昭和六三年六月七日同支店を訪れ、控訴人担当者に対し、中西一知が井上猛を被告として提起した本件土地についての根抵当権設定登記抹消登記請求訴訟が裁判所からの和解勧告により七月中に和解予定であるとの報告をし、本件債権の存在を前提にその返済計画を持参する意向を述べ、また、平成三年四月一八日にも同支店を訪れ、支店長岩谷敏市に対し、本件債権に対する内入弁済として手持の五〇〇〇円を支払い、更に、平成四年一月二三日同支店を訪れ、同支店長に対し、本件債権の存在を前提に、中西一知所有不動産の売却等によって本件債権について債務を整理する意向を述べたことが認められ、右認定に反する中西証人の右供述の一部は信用することができない。

右事実によれば、本件債権は、昭和六三年六月七日、平成三年四月一八日及び平成四年一月二三日、それぞれ中西春一が債務承認したことにより順次時効が中断したといえるから、本件債権は有効に存在することになる。したがって、被控訴人の根抵当権消滅を理由とする本訴請求は理由がない。

四、なお、原判決理由説示に関連して付言するに、被控訴人は、債権者代位権に基づき、中西一知の有する本件債権についての時効援用権を代位行使することができるところ、被控訴人は本件債権について昭和六一年三月一八日の債務承認により時効が中断したことを権利自白し、それを前提として同月一九日を起算日とする五年の消滅時効を主張するのであるから、原判決が説示するように、本件債権の各弁済期を起算日とする五年の消滅時効を認めることは、弁論主義に反し許されないというべきである。そして、被控訴人は、本訴において、債権者代位権に基づき、中西一知の有する本件債権についての時効援用権を代位行使するものであり、本件根抵当権は本件債権と別個に時効消滅することはないから、本件債権について時効中断が認められる以上、被控訴人の請求を認容する余地はない。

五、よって、右とその趣旨を異にする原判決を取り消し、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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